213 新規性

意匠法では、
「一  意匠登録出願前に日本国内又は外国において公然知られた意匠
二  意匠登録出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された意匠又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった意匠
三  前二号に掲げる意匠に類似する意匠」(第三条第一項第一号から三号)は、意匠登録を受けることができない、としています。
【説明】既に公然と知られた意匠(一号)や、誰もが利用できる状態の意匠(二号)は、新規性がなく、登録して保護する意義はありません。意匠法第一条の法目的である利用の促進や産業の発達を阻害することになるからです。更に、意匠の新規性の判断は、外形的な物品の形状や模様などを比較しておこなう特質から、一号や二号と同一の意匠だけに限定しないで、それらと類似している意匠(三号)も新規性がないものとします。

では、「類似している」とは、誰の目で、誰の美感で、どう判断されるのでしょう。意匠権の範囲について、「登録意匠とそれ以外の意匠が類似であるか否かの判断は、需要者の視覚を通じて起こさせる美感に基づいて行うものとする。」(意匠法第二十四条第二項)とされており、新規性の類似の判断もこれを援用しています。すなわち、需要者(最終需要者に限らず取引者も含む)の目で、需要者の美感で判断することとしています。意匠登録を受けることができるかどうかという審査の場では、特許庁の審査官が需要者の立場に立って、判断することになります。
二つの意匠の類否判断の手法は、特許庁の審査基準によれば概略以下の手法によるとされています。

(1) 二つの意匠の物品の認定と類否判断
物品の使用目的や使用状態などに基づき物品の用途と機能を認定します。この用途と機能に共通性があれば、物品は類似とされます。共通性がなければ、物品は非類似とされ、意匠は類似しないとされます。この場合、用途や機能を詳細に比較する必要はなく、(2)から(4)で形態を評価する上で、用途や機能の共通性があれば物品の類似性ありと判断するに十分としています。

(2)二つの意匠の形態の認定
肉眼の視覚観察を基本とします。手に持って使うものか、据え置いて使うものかによって、通常の使用状態に重きを置いて観察します。物品全体の大づかみな形態と各部の形態を認定し、二つの意匠の共通点と差異点を認定します。

(3)形態の共通点と差異点の個別評価
注意を引く部分かどうかを、全体に占める割合の大小、観察されやすい位置かどうか、内部の形態は使用時にも目に付きやすいのか、流通時のみに観察され得るのか、などから評価します。先行する意匠群と対比した場合に、注意を引きやすい形態かどうか、を評価します。視覚に大きな影響のないわずかな相違について、機能に大きく関わっているとしてもことさら重要視しません。例えば、強度向上のための波型や滑り止めのための線模様などは、機能的な意味を持つ形態です。機能を実現するためのアイデアや技術的思想の保護は、特許と実用新案の制度に委ねられるからです。

(4)二つの意匠全体としての評価
意匠全体として形態の全ての共通点と差異点を総合的に観察した場合に需要者に対して異なる美感を起こさせるかどうかを判断します。異なる美感を起こさせる場合には、形態は非類似とされ、二つの意匠は類似しないとされます。