312 先行意匠調査


既に公知となっている意匠と同一又は類似の意匠は保護を受けることはできないのですから事前に意匠公報を調査する必要性はご理解いただけたと思います。いま甲さんが出願Aをしようとする場面(右図)で、出願Aの同一範囲(右上ハッチング)が公知意匠である乙さんの先願Bの類似範囲(白抜き)から離れているので、保護を受けることができるのです。
こうして、甲さんは出願Aの意匠の保護を受けることができたとしても、それを自由に実施できない場合が二つあります。

一つは、甲さんは出願Aの類似範囲(緑線白抜き)のうち、乙さんの先願Bの類似範囲(赤線白抜き)に抵触する部分は、業として自由に実施することはできません(意匠法第二十六条第二項)。乙さんの意匠権の実施許諾を得るなどしなければなりません。これは、登録を受けるための要件である新規性先願であることなどが、公知意匠や先願意匠の類似範囲を比較しても出願自身の類似範囲を評価するわけではないことによります。出願自身の類似範囲まで含めて審査できないのか、という問題ですが、比較する対象が限定できず厖大な対象と比較することになり、非現実的であり、かつ意義・効果も乏しいと考えられるためです。

もう一つは、甲さんは出願Aの同一範囲(右上ハッチング)が、甲さんの出願日前の出願である丙さんの登録意匠C(クロスハッチング)を含んでいる(利用している)ので、業として自由に実施することはできません(意匠法第二十六条第一項)。丙さんの意匠権の実施許諾を得るなどしなければなりません。これは、登録を受けるための要件である新規性先願であることなどが、物品や意匠の対象が類似していない場合、かつ容易には創作できない意匠であれば、出願日前の他人の意匠を含んでいても、登録されることによります。他人の意匠を含んでいたとしても、保護するに値すると認められうるのです。

このように、意匠登録を受けたとしても、業として自由に実施できない場合がありますので、先行する意匠登録を十分調査・評価しておかなければ、意匠登録の効果が期待を外れることにもなりかねません。この調査・評価は、専門性が求められるものですので、ご遠慮なく相談いただきたいと思います。