422 利用抵触
これまでに説明してきた直接侵害、間接損害や他人の登録意匠を利用する又は抵触する場合はいずれも、意匠権同士又は意匠同士の関係で生じるものでした。しかし例外的には、特許権・実用新案権や商標権、著作権との関係で生じる侵害もありますので、それらを見て行くことにします。
意匠権と特許権・実用新案権や商標権、著作権とではどちらが勝てるのかは、基本的には、以下に示す条文のように先願主義或いはそれに準じた考え方で優劣を定めています。
「意匠権者、専用実施権者又は通常実施権者は、その登録意匠がその意匠登録出願の日前の出願に係る他人の特許発明若しくは登録実用新案を利用するものであるとき、又はその意匠権のうち登録意匠に係る部分がその意匠登録出願の日前の出願に係る他人の特許権、実用新案権若しくは商標権若しくはその意匠登録出願の日前に生じた他人の著作権と抵触するときは、業としてその登録意匠の実施をすることができない。」(意匠法第二十六条第一項)
【説明】前半は、出願日前に他人が出願した発明・実用新案を利用している(含んでいる)場合です。右図のクロスハッチング部分が該当します。
後半は、出願日前に他人が著作した著作物の著作権、又は出願日前に他人が出願した特許権・実用新案権・商標権と抵触する(重なり合う)場合です。右図の甲さん意匠権(右上ハッチング)と丙さん著作権C(右下ハッチング)の重なり合う部分が該当します。
前半の利用のケースとしては、他人の発明した自転車ハンドルを部品として含んだ自転車全体の意匠が独特の美感を起こさせるとして意匠登録を受ける場合があります。他人の発明した自転車ハンドルの形状が自転車全体の意匠とよい美的調和を生んでいる場合です。
後半の抵触のケースとしては、特許権・実用新案権の場合ですと、ある物品の形状が技術的効果もあり同時に美的でもある場合です。技術的効果については特許権・実用新案権として、美的効果につては意匠権として、権利化されることが有りえるのです。
商標権の場合ですと、ある物品の形状や模様が意匠でもあり商標でもある場合に生じることになります。他人の商標が著名なものであれば、混同を生じるとして登録を受けることはできませんが、著名でない場合には登録されうるのです。著作権の場合ですと、著作物である彫刻を置物のようにある物品の形状として用いた場合に、抵触が生じます。このように抵触は、制度目的を異にした法律間で重複して権利化されるために生じるものです。
「意匠権者、専用実施権者又は通常実施権者は、その登録意匠に類似する意匠がその意匠登録出願の日前の出願に係る他人の特許発明若しくは登録実用新案を利用するものであるとき、又はその意匠権のうち登録意匠に類似する意匠に係る部分がその意匠登録出願の日前の出願に係る他人の特許権、実用新案権若しくは商標権若しくはその意匠登録出願の日前に生じた他人の著作権と抵触するときは、業としてその登録意匠に類似する意匠の実施をすることができない。」(意匠法第二十六条第二項)
【説明】意匠法第一項の同一範囲と同じように類似範囲(白抜き部分)でも実施できないとしています。前半は、出願日前に他人が出願した発明・実用新案を利用している(含んでいる)場合です。右図のクロスハッチング部分が該当します。
後半は、出願日前に他人が著作した著作物の著作権、又は出願日前に他人が出願した特許権・実用新案権・商標権と抵触する(重なり合う)場合です。右図の甲さん意匠権類似範囲(白抜き)と丙さん著作権C(右下ハッチング)の重なり合う部分が該当します。